札幌医科大学と北海道に遺骨返還を求めています

2018年1月26日、札幌地方裁判所に提訴

コタンの会は、2018年1月26日、浦幌アイヌ協会とともに、札幌医科大学と北海道に対し、浦河町と浦幌町から持ち去られたままになっているアイヌの遺骨を返還するよう求める訴訟を起こしました。

 

 2020年1月21日、コタンの会は、札幌医科大学と北海道に対する上記の訴えを取り下げました。

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訴状(原告:コタンの会、浦幌アイヌ協会、被告:札幌医科大学、北海道)
1 被告らは原告コタンの会に対し、別紙遺骨目録記載の番号1から同35まで計35箱の遺骨を返還せよ
2 被告北海道公立大学法人札幌医科大学は、原告浦幌アイヌ協会に対し、別紙遺骨目録記載の番号201の1体の遺骨を返還せよ
3 訴訟費用は被告らの負担とする
との判決を求める。
訴状 札医大.pdf
PDFファイル 275.0 KB

2018年1月26日、提訴後の原告記者会見(札幌弁護士会館)

札幌医科大学などを提訴したコタンの会の清水裕二代表(中央)、浦幌アイヌ協会の差間正樹会長(右から2人目)ら。
札幌医科大学などを提訴したコタンの会の清水裕二代表(中央)、浦幌アイヌ協会の差間正樹会長(右から2人目)ら。

市川守弘弁護士(原告代理人)

 

今回、札幌医科大学が保管しているアイヌ遺骨35プラス1箱、1箱を1体と数えれば36体──浦河町の「東栄遺跡」と呼ばれるところから持ち去られた遺骨35体と、浦幌町から出土して札幌医科大学に寄贈されたとされる遺骨1体──合計36体の返還を求める訴訟を提起しました。

 

2012年に始まる一連のアイヌ遺骨返還訴訟では、これまで北海道大学を相手どって裁判を闘ってきましたが、今回は札幌医科大学を被告にしたこと、合わせて北海道を被告に入れたことが、従来と違う点です。

 

また今までは、北大が盗掘したのではないかと疑わしい、主に戦前(に発掘された)の遺骨──新ひだか町だけは戦後の改葬ですけども──の返還を求める裁判でした。それが第一陣の、浦河町杵臼(出身の子孫)や浦幌町(浦幌アイヌ協会)の訴訟です。第2弾は、昨年10月にコタンの会が提訴した、市町村と北海道大学が一緒になって、墓地改葬の名目で持っていった遺骨の返還を求める裁判。きょう(2018年1月26日)午前中に口頭弁論が開かれた、北大と新ひだか町を被告にした裁判がそれです。そして今回が第3弾、札幌医科大学と北海道を被告にした裁判です。

 

今回、なぜ北海道が被告になっているかというと、(返還を求めている遺骨が)埋蔵文化財あつかいされているからです。訴状にも書きましたけども、市町村が発掘した遺骨で、所有者不明とされているものは、文化財(の指定を受けたもの)については都道府県が所有権を有する、というふうに文化財保護法の条文に書かれていて、これら文化財指定を受けた遺骨については、北海道がいちおう所有者という形になるので、北海道も被告として訴えています。

 

文化財の問題を裁判で取りあげるのは初めてで、論点は大きく二つあります。ひとつは、「本当に埋蔵文化財なのか?」という問題。もうひとつは「仮に埋蔵文化財だったとしても、返すべき人、返還請求できる──地元のアイヌの集団──に返すべきものは返しなさい」ということです。

 

(記録にあたると、東栄遺跡の調査は)あまりにお粗末な発掘だったので、(これらの遺骨は)とうてい埋蔵文化財ではないだろう、と。道には所有権は一切ありません、だから返しなさい、という単純な訴状です。

 

埋蔵文化財(指定を受けたアイヌ遺骨)については、今後も研究対象にされる可能性が極めて高いので、ここで返還をしっかり勝ち取ることに大きな意義があると思っています。

 

また浦幌アイヌ協会が返還を求めている遺骨は、浦幌町から札幌医科大学に「寄贈」「譲渡」という形で渡っていたものです。従来、大学はこれをアイヌ遺骨とみなしてナンバーもふいり、文科省にも保管アイヌ遺骨として届けが出ているものですが、昨年、浦幌アイヌ協会から札幌医科大学に対して「浦幌町に返還してください」と申し入れたところ、大学側は急に「これはアイヌ遺骨ではない」と言い出して、浦幌町への返還を拒否しました。そこで今回の訴えに至りました。「アイヌ遺骨ではない」という大学側の根拠は非常にあいまいです。そこでこちらは丁寧に、戦前の地図や和人入植年などの証拠を積み重ねて「これはアイヌ以外の遺骨だとは考えられない」という結論に至ったので、裁判に踏み切りました。こちらは埋蔵文化財指定はされていないので、札幌医科大学だけが被告です。

 


清水裕二さん(原告、コタンの会代表)

 

昨夜(2018/01/25)のHTB報道によれば、埋蔵文化財指定の遺骨を使ってのことでしょう、札幌医科大学が提供した遺骨を使って、研究者たちがDNAを抽出して検査したとのことです。

 

Noboru Adachi, Tsuneo Kakuda, Ryohei Takahashi, Hideaki Kanzawa-Kiriyama, Ken-ichi Shinoda ;Ethnic derivation of the Ainu inferred from ancient mitochondrial DNA data : American Journal of Physical Anthropology

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajpa.23338/full

 

昨年5月、私たちが札幌医科大学を訪ねて、いろいろ質問をした時には、「この大学に保管されているアイヌ遺骨は文化財であって、札幌医科大は(本来の文化財所有者である自治体に代わって)いわば貸倉庫をしているようなものだ」という言い方だったんですよね。「預かっているだけ」というんでしたら、昨日のTV報道での研究者の「札医大から(資料としてアイヌ遺骨の)提供を受けて研究した」という発言はおかしすぎる。その点を考えても、今回の提訴の意味があると考えています。

 


差間正樹さん(原告、浦幌アイヌ協会会長)

 

 

札幌医大に収蔵されていた私たちの先祖の骨。これはあくまでも私たちの先祖です。その先祖に安らかに、私たちの土地で眠っていただく。これが目的でこの裁判を起こしました。決して研究者のための資料なんかではありません。繰り返しますが、私たちの先祖なんです。そういったことでこの裁判を起こしました。その点をみなさん……よろしくお願いいたします。